おかみさんは生粋の長崎まちっこ
「おかみさん」は長崎市の中心地で育ち、コナモンも焼ける人情溢れる方である。オオサカのおばちゃんの様であるが、人柄も舌も言葉も古い長崎の風情があるのである。そんなおかみさんにより、毎週のように長崎弁のプチ講座があり、生まれも育ちも違う人たちが、代わるがわる、その傍らで用法を補足し、各家庭での使い方も確認される。大抵傍らのひとたちも旧長崎市街の人たちで、辺縁の集落や時津・長与の人はいないため、おそらく、長崎弁の話者の範疇なのであろう。
たく
意味
炊くというと一般的には米飯を炊くという意味だろう。西日本では煮るをも含む意味を有することはある。あら炊きなどという調理方法は、照りを利かせながらばちばちと魚のアラを煮るものである。
長崎弁では、これが、調理全般まで拡大するという。調理の範囲に関しての聞き取りによると、おかずになるもの、朝食・昼食・夕食として食卓に上がるものの調理を全て内包するとされ、全国的に通用する米飯を炊く、西日本での煮るに加えて、揚げる、焼くといった火を使った調理から、刺身を作ることまでを含む場合がある。間食となるものの調理である、芋を茹でる、とうもろこしを茹でるや菓子を作る場合には「たく」は使用されない。
文法的事項
終止形
たく taku
連体形
たく taku
否定形
たけん taken
命令形
たかんば takanba たかんね takannne(やや優しく、勧める際に用いる)
過去形
たいた taita
たいとる taitoru
用法例
子供の時分から、よく言われたという表現から記す。
あるときおかみさんがクリームシチューを作ってきたという。自分で作ったことをアピールしながら以下の様におっしゃる。
「クリームシチューばたいっととさー、食べんね」
クリームシチューを作ってあるから、お食べなさい
麺類においても茹でる事で、たくを頻用するという。ブロッコリーなどの野菜でも「たく」を使用する。ちゃんぽんのスープも「たく」という。
「ラーメンをたく」(カップラーメンであっても)
「うどんをたく」
味噌汁もたくという。
「味噌汁ばたいとっけん、食べていかんね」
味噌汁を調理したから、食べていきなさいな(どのようなシュチュエーションか不明)
夕食ができているのに、子供がぐずぐずしていて、まだ食べていない際に以下の様に使用する。この夕食にはアジフライでもキスフライでも、煮物、きんぴらなどありとあらゆる調理方法が含有されており、御夕飯ができていることを伝える。
「ゴハンばたいとっけん、はよ食べんねー」
夕食の支度ができている(完了している)から、早く食べなさい
食物の調理における例外的事項
上記のように、間食で供されるもので火を使ったものは「たく」の範疇には入らない。このため、以下の様に使用する。
- トウキビばゆがいとっけん とうもろこしを茹でてあるのよ
- いもばゆがいとっけん 芋を茹でてあるのよ