カズがかずむ
おかみさんには、東京帰りの旦那さんがいる。長崎弁というより標準語調の話し方も混じる点では、おかみさんとは話し方が異なり、余所者の筆者からすると興味深いのだ。標準語調の長崎訛りというと、単語は混合され、そこに長崎弁の抑揚や発音が標準語の単語に付加されて、また異なるエキゾチックな雰囲気が生まれてくるのかもしれない。そんなおりに、珍しく、旦那さんが食事の際に、「かずんでみんね?」と言い出し、筆者もキョトンとしていた。そこでおかみさんの解説が始まる。
かずむ
意味
匂いを嗅ぐ。「かぐ」が「かずむ」となる。鳥取あたりから九州全域(佐賀、佐世保、長崎、熊本、鹿児島などの九州の西半分、福岡との記載はない)でも使われるという。
文法的事項
終止形
かずむ kazumu
連体形
かずむ kazumu
否定形
かずまん kazuman
連用形
かずんどる kazundoru
命令形
かずまんば kaumanba かずまんね kazumanne(やや優しく、勧める際に用いる)
過去形
かずんだ
用例:かずむとねまるはセットにして覚えておくと良い
夏になって、冷蔵庫もなかった頃のことになるのだろう。匂いや味で、飲食物がダメになっていないかどうかを確認するという作業があったはずだ。
「かずんだらねまっとったっさー」
匂いを嗅いでみたら、腐っていたんだよ。
「かずんでみんねー、ねまっとーけん」
匂いを嗅いでみてよ、腐っているよ。
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ねまる
意味
腐るを意味する。東北では座っている、留まっているなどの意味があるという。長崎弁における「ねまる」は九州全域から広島あたりでも同様の意味で使用される。古語における「ねまる」(ラ行四段活用)は東北における意味に近く、うずくまる、ひれ伏す、寝そべるなどがある。また転じて、腐るを記載するものも見られ、西国では、この意味が後世まで残っていると見られる。また、長崎弁の用法でも、腐るの意味より、元の意味に近く、事業などで燻ってる様や滞っている様をさす場合もある。
文法的事項
変化の結果の状態を表す動詞である。
終止形
ねまる nemaru
連体形
ねまる nemaru
否定形
ねまらん nemaran
命令形
NA
過去形
ねまった nematta
連用形
ねまっとる nemattoru
用例
(Covid-19下での店の経営状況を話題に)今は客足もねまってるけんね、くるしかよね。
意味の最後に挙げた、ねまるの異なる用法、鈍るが訛っているのではなく、ねまるをこのように伸び悩む、滞っているなどという 用例もある。