ひと・ものをさす言葉にご注意を
長崎弁を話す人々の間では、特に近しい間柄の人たちで「わいわ(は)さー」「おいんとこノー」とやってるわけである。ある時、おかみさんに旦那さんが「わいわさー」とやっていて、話が見えてこなくて、なんで旦那さんがそれをするん?と聞き返したのである。なんということはない、関西方面での「わい」は一人称単数の人称代名詞なのであるが、長崎弁での「わい」は二人称単数なのである。IとYouを聴き間違えれば、話が見えてこないのは当たり前である。長崎県の中で大村あたりまでは、「おい」「わい」なのだが、佐世保になると「わい」は荒っぽく聞こえるという。
人称代名詞
長崎弁における人称代名詞は長崎県全域でも通じるとされる。女性による一人称が「おい」とするものも長崎市ではみられる。佐世保の女性では「うち」となる。
- 一人称単数「おい」(佐世保あたりでは、女性は一般的に「うち」)
- 二人称単数「わい」
- 三人称単数 指示代名詞と一致し、現場での存在の有無によって使い分けがされる
- 「こい」同じ現場での三人称単数
- 「あい」場を共有しないものの三人称単数
茂木ではまた異なる単語を当てることとなり、長崎のまちっことしても、多大なる苦労をするらしい。やはり文脈を読み解くには代名詞は重要な鍵となるため、これが大幅に異なる集落が集まっていると、意思の疎通には労力を要するのである。
- うんが あなた
- わいが わたし
- あんち 兄貴
指示代名詞
いわゆる「こそあど」言葉と同じ用例となる。
「こい」「あい」「そい」「どい」
注意深く聞いていないと、上記の人称代名詞の指しているものとの区別がつかなくなるため、丹念に追う必要が出てくる。総じて、西の果て、ジャカルタの郊外都市である長崎市下の人々は、指示代名詞だけを使って文章を組み立てる傾向があり、「こいがそいして、あいがこいして」(標準語訳 これがそうして、あれがこうして)と、ワンセンテンスに一つだけの意味のある言葉とそれ以外多数の指示代名詞を使う傾向にあり、もう何を言っているかわからないことになる。小学生のようなボキャブラリーで生きているのである。
終わりに
長崎市下の人々は言葉が荒く、他所の、義務教育が浸透し、代名詞が標準語化された地域と違って、依然として方言としての代名詞が残っているのをよく聞く。特に50代、40代での利用は多く、若い世代でも案外聞かれるのが長崎市下の特徴でもある。くんちなどによる濃密なつながりが影響している部分もあるのだろう。