長崎くんち
長崎くんちは一点の年中行事としてではなく、6月の小屋入りから始まる各町内での半年近くに及ぶストーリーとして語られるものである。準備は、「くんちベイビー」からはじめる人はくんちの前15年くらいから始めるものもいるが、一般的には前年の12月あたりから始まる。その家の金回りや格式、町内での役回りから、毎回のくんちでのポジションや役割が徐々に決まっていく、マウンティング大会の様相を呈するのも、側から聞いていると、町内での魑魅魍魎の世界が見えて興味深い。どこどこの家は、子供を船頭にするのにいくら寄付したなどという話の類である。
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くんちの一連の流れには日程がある。年間を通してのイベントとしてのくんちであり、それを丹念に追っていくことは今年はできなかったのが残念であるが、例年なら以下の通りである。これは暦によって変わることなく、この通りの順番日程で進んでいく。
- 6月1日 小屋入り 打ち込み
- 10月3日 庭見世
- 10月4日 人数揃い
- 10月7〜9日 くんち
今年の庭みせは例年通りなら、10月3日の予定であった。毎年この日にやることが定まっている。その他、神事に関係するものとして、諏訪神社で行われる、事始神事・御神輿守清祓い、氏子清祓いなどの行事は10月1、2日に諏訪神社にて行われる。人数揃いは各町内でそれぞれの出し物が仕上がったことを示すもので、各踊町で行われている。
庭見世
8月の精霊流しが終わる頃から、各踊町の練習には熱が入りだす。夕方の19時ごろから練習する風景が見られ、少しずつ、あの町のお囃子が良くないとかいうことがそろそろと飲み屋のテーブルに上がってくる。こうやって、ひたひたと贔屓の踊町の出し物の話を交わし、徐々に「くんち気分」が高揚していく。10月に入り、人数揃いの前日、10月3日に庭見世となる。
庭見世は、7年に一回まわってくる(丸山町と寄合町はかつては毎年)踊町での出し物での使用するもの、届けられた花を各踊町の町内の有力者の庭と座敷に置き、中庭と合わせて、他の町内に見せる行事である。当時の長崎は砂糖を右から左に言い値で流すだけの殿様商売も良いところ、経済的に潤った街の中での一種の福祉事業の側面も持ったおくんちで、豪商の家の戸板を外して中を見せるのはどの程度の儲けがあったかも垣間見れたことだろう。
この項では、昨年、2019年の写真を見ながら、くんちの庭見世気分にでも浸ってみたい。くんちの出し物には、様々な道具が必要になる。船を出すところ、コッコデショの座布団を積んだ様な御輿を出すところ、龍踊りの様に龍を出すところ、丸山の様に踊りを見せるところ、獅子舞を出すところなど、様々が出し物があり、その道具立てもそれぞれが違ってくる。
絹地の根曳き衆の衣装や船に始まり、お囃子で使う楽器や衣装、船頭役の子供が着る衣装、傘鉾(かさぼこ)などが主な展示物である。特に造形の細かい傘鉾は、長崎ガラスや長崎刺繍といった見栄とカネが反映される、長崎の廃れつつある、伝統工芸や側面を表す貴重なものであるから、これだけを間近で見て回るだけでも良いものである。
2019年のくんちでは、筆者は踊町のうち、江戸町、魚町、籠町の庭見世に行った様であり、その一部の写真であるが、ここに載せておく。きらびやかな衣装や供物など、長崎におけるまちっこの見栄っぱりなところがよくわかる。
まとめに
普段くんち本番では、なかなか傘鉾や道具・衣装は間近では見られないものである。それをじっくりと見られる機会が庭見世である。大抵の長崎まちっこは根曳などの関係者に知り合いなどがいるため、これに現金を包んで、花として届けるのが庭見世の機会でもある様だ。