中華料理といえば天天有だった時代
華僑の店が多くある中で、長崎の人たちの中華料理といえば、天天有であった時代があるという。長崎中華街はちゃんぽんストリートとなり、どこからも、中華料理の愉しみが消えていく中、ここもちゃんぽん食堂の雰囲気となってしまったようだ。看板には純中華料理と言う、昭和初期なら「純支那料理」、「支那人コック」と表記されていただろう名残りも見られる。一種、この、肩の力も魂も抜けたような感じも、華僑●代目のちゃんぽん食堂化した中華料理店の特色である。
天天有は1946年に創業したというが、実際の歴史はそれより古く、金屋町にあった清海樓に発する。長崎に渡ってきた官乗廉氏が四海樓で修行し、暖簾分けを許され、創業したという。現在は4代目となっている。四海樓からの暖簾分けや修行歴があるものは案外多いが、暖簾分けを許されたのか、単に修行したのかもまた今後聞き取りを進めていきたい。
店内は、ここの家風なのだろう、あちこちが戸散らかり、新刊の漫画本や書類、錫の酒器などが混在しており雑然としている。奥には女将さん専用スペースが設けられ、のんびりと客を観察なさっている。三角亭のような風景である。福建から来たような雰囲気の女将さんだが、佐賀のヒトらしい。
店舗内にメニューが一覧として並べられており、漢語で書かれているのであるが、今では使われていないのか、値段表記は全てが黒く塗りつぶされている。現在無くなっているメニューもある。その上部には何やら本国から送られたらしい、揮毫もぶら下がる。大きさが康楽のものよりだいぶんちいさいあたりが、施設との繋がりの強弱を伺わせる。
イケイケドンドンの昭和の頃には、この名前にあやかって、天天有という名前をつけたという鹿児島の店舗もあったほどであるようだ。特に暖簾分けなどではなさそうである。現在では、他の店の方がきちんと商売をしているのは時代の皮肉でもあり、天天有という名前負けしているようにも見える。
Q. 天天有の意味は?
A. 先代が長崎県思案橋のチャンポン店の天天有にことわってつけたものですが、 そこの店主の話によりますと上には上がいるという意味だそうです。また中国語では、商売が毎日毎日有りますという意味もあるそうです。当然ですが私は上の方々をめざして、いつもいつもよりよい事と物を思いながら、こつこつやるしかないなあと思っています。
天天有のちゃんぽん「しまりのなかやろ」
具材はキャベツ、モヤシ、タマネギ、紅白のハンペン、ゲソ、アサリ、豚肉などである。麺はやや平麺の唐灰汁入りのちゃんぽん麺である。スープは鶏ガラベースに豚骨のよく効いた、やはり甘いものである。焼きと煮が共に効き、野菜はしんなり、スープに具材の旨味が出ていくまでになる。スープにとろみが出るほどまでに煮込まれているが、麺は適度にコシが残っている。
器は平たい、鳳凰の二羽踊る口の開いたちゃんぽん碗であった。
どこか味に締まりがない、ホワッとした、印象に残りにくいちゃんぽんである。ここが長い、あるいは昔を知るものに、天天有のちゃんぽんの話をすると「どうやった?しまりのなかやろ」ときかれる。純中華料理という名前はどこへやら、厨房のおにいさんはフラフラと思案橋の本通りの客引きの男たちの列に並んでいた。
店情報
- 住所:長崎市本石灰町2-14
- 電話番号:0958211911
- 営業時間:10:30 - 00:00(Covid-19下で短縮中である)
- 定休日:水曜定休(毎日やっていると看板にしているのであるが。。。)
- ウェブサイト: http://www.tenten-yu.net